第一回・オレオレ詐欺
(※舞台設定)
□マッチで着火したらジャンヌダルク並みに炎上しそうなアパートの一室
□電話が鳴っている
(※登場人物)
◇ファリア・ルーティス……主人公。アパートの住人。魔王。
◇男……電話相手。すねかじり。プリン。
「もしもし」
『あ、もしもし? オレだよオレ』
「誰だ」
『だからぁー、オレだよ』
「…………」
『オレ、オレ』
「もしかして、ズメッチョか?」
『……!? そ、そう、そうだよ。オレだよ』
「何十年ぶりだ。少し声が変わったな」
『そうかな? 変わってねえよ』
「いや、前はもう少しゴリゴリしていてまるで何を言っているのかわからなかったのだが」
『……あー、じゃあ変わったかもね』
「ドスボーチョンは元気か。相変わらず尻の穴から槍出して気付かずじまいか」
『あ、ああ。相変わらずな』
「奴の話は二度とするな」
『…………。わ、わかった』
「時にズメッチョ」
『な、なんだ?』
「お前、いつから語尾に『ズメッチョ』と付けることをやめた」
『へ!? ──い、いや、何となく。先週ぐらいから。ほら、なんかアホらしいじゃん』
「ふざけるな!!」
『え!』
「ふざけるな」
『あ、あの……』
「……………………ズメッチョと、言え」
『え』
「ズメッチョと言え!! 語尾にくっつけろ!!」
『!? !? !?』
「待て。鍋が」
『…………?』
「──よし、いいぞ。ズメッチョと言え」
『あの』
「わたしの言うことが」
『久しぶりだズメッチョ!』
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
「……そうだ、それでいい」
『あのさ、それで』
「ズメッチョ!!」
『それでさズメッチョ!!』
「ズメッチョ」
『ズメッチョ……』
「…………」
『あ、あのさズメッチョ。それでさズメッチョ』
「……先程から気にはなっていたが、ズメッチョの使い方が貴様、不自然だ」
『そ、それは』
「ズメッチョ!!」
『そ、それはズメッチョ!!』
「ズメッチョリアス!!」
『ズメッチョリアス!?』
「ズメこぼし」
『ズメこぼし……』
「ズメッチョ」
『ズメッチョ……』
「…………」
『…………』
「それで、用件はなんだ」
『! あ、あのさズメッチョ! ちょっと困ったことがあってズメッチョ! 実はさズメッチョ』
「おい」
『なんだズメッチョ』
「さっきからズメッチョズメッチョやかましい。お前はいちいち語尾にズメッチョと付けなければ喋れないのか」
『な、なんだと。それはアンタが……!』
「ハァ……ハァ……ハァ……」
『な、なんだよ』
「ハァ……ハァ……ハァ……」
『なんだってんだよ、急になやましいなっ』
「い、医者を呼んでくれ……」
『な、なんだ、どうした!』
「ステーキが……食いたかった」
『お、おう』
「今朝ゴミ捨て場で……牛革靴を拾った……」
『お、おう』
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『……何て事を……』
「牛の呪い……」
『それは違うぞ。待ってろ。今医者を呼んでやる。あんたの住所を教えてくれ!』
「ベーベステルケセ・トンガートンガービブリオル・スパンキーナ・ノルヴェティン・粉!!」
『え!?』
「粉!!」
『住所を……』
「わたしの中で牛が、帝国を築いている!!」
『大丈夫か、あんた。医者を』
「粉チーズがおいちーよー。粉チーズがおいちーよー」
『チーズ?』
「違う! これは大軍だ! 軍手の大軍だ! 道端に落ちている軍手が、わたしの行く手に立ち塞がる……!」
『…………』
「しかし所詮軍手だ。蚊取り線香で撃退出来る」
『おい、まじで医者呼ぶから。住所を』
「ドンツクドンツクドンツクドンツク……」
『恐いよ。あんたが恐いよ』
「わたしは今、匍匐前進しています」
『…………』
「おっぱいが畳にこすれるー」
『クツなんて食うから……』
「うふふっ、だぁ〜れだっ」
『本気であんただれ』
「アスパラガスが飛んできた、逃げろっ」
『食わず嫌い?』
「ウ・シャヴテム、マイム、ヴェ・サソン、ミ・マイネイ、ハ・イェシュア。そしてあなたたちは救いの井戸から水をくみ上げる。ヘブライの歌詞、旧約聖書のイザヤ書十二章三節、マイムマイムは砂漠の踊り。ネバダみたいな砂漠の踊り」
『発言には気を付けて』
「脱ぐ。しっかり見ていろ」
『電話なのが残念だよ』
「髪が長くてチチもデカいので、風呂に時間が掛かってたいへん」
『へー。そう』
「かの国には正義の鉄槌が下るだろう」
『あのさ。オレ実はさ』
「うむ」
『詐欺師なんだよね』
「オレオレ詐欺というやつか」
『うん』
「真面目に仕事しろ」
『……うん』
「親を安心させろ」
『……うん』
「今日はゆっくりしろ。明日から、がんばれ」
『…………』
「ああ、今日だけはいい。今日は泣いてもいい日だ。明日から、もう泣くな」
『……うん……』
「じゃあ、達者でな」
『あの』
「うん?」
『……ありがとう……』
「それは、もっと、身近にいる、大切な人に言ってやれ」
『もう……』
「うん?」
『靴は、食べちゃいけないぞ』
「のなー」
『がちゃん』
「ファリア、ファリア。ファファファファファリア。ファイファファイ。ファファファファファリア。ファイファファイ」