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み な ご ろ し の フ ァ リ ア
| 不定期更新/つれづれ魔王さま | エピソード・みなごろしのファリア | ||||||||||||||||||||
7月・人死にを出す芸風 6月・バッタをもぐ行為 |
プロフィール | 第一回「オレオレ詐欺」 |
余白(黒?)がもったいないのでミニ小説
平日初夏
青空を引っ掻く布きれのような薄雲に、缶ジュースと一緒に道路の真ん中であぐらを掻きながらガンを飛ばしているのはファリアで、その隣で制服姿でうんこ座りしながらぼんやりと流れる空を眺めて、空き缶にタバコの灰を落としているのは、同じアパートの隣の隣の部屋に住んでいる女子高生だ。
ぱっぱー、と後ろからクラクションの罵声が響く。道の真ん中で何やってんだクソアマども轢き殺されたいのかと人間の言葉も聞こえる。ファリアはともかく、女子高生は轢けるものなら轢いてみろの精神だ。タバコをうまそうでもなくどちらかと言えばアクセサリー扱いで吸い込むと、まだ赤く光を放っている灰が道にこぼれた。空を眺めるのとおんなじ目で女子高生はその灰を見やると、足を伸ばして靴の爪先でぐじぐじと踏みにじる。すると体勢が若干崩れてしまって、女子高生はコサックダンスをするように右足を前方に突き出すと、空き缶を蹴飛ばしてしまった。
情けない悲鳴を上げて空き缶は道路を転がる。中からどろりとした灰混じりの黒い液体がこぼれて、アスファルトに軌跡を描く。女子高生は「あ〜あ」とつぶやいて、別段回収作業は行わない。ただ遠景の一部となってしまった空き缶をやはりぼんやりと眺めている。初夏の陽射しがアスファルトを灼いて、黒々とした飲めない飲み物の道筋をきらきらと輝かせた。
クラクションはまだ鳴っている。オッサンの絶叫も健在だ。ぶっ殺してやるぜファァァァァァァァック。サイドドアが開く音。閉じる音。足音。何か重いものが肉を打つ音。振り向くと筋肉隆々のオッサンが立ち止まっていて、自分の手に殺意の逡巡を見せつけるかのようにして、でっかいレンチをべんべんと打ち付けていた。
オッサン、レンチを振り上げる。ハゲの頭頂に燦然と輝く太陽。目を細めた。
「お」
その時、ファリアが声を上げた。女子高生は振り返る。空を見上げる。
ファリアが指差す方向。飛行機雲が突き抜けた蒼穹の海。鳥など飛びもしない超高空。布きれのような薄雲の陰。それは、あった。
黒いシルエット。女子高生はスカートのポケットから双眼鏡を取り出した。倍率アップ。さらに倍。超望遠モード発動。カラスの目クソまで見えた。お前邪魔。死ね。ぶん、と二つの円に閉ざされた視界を動かす。ファリアの指差した方角。それは確かにファリアの指差して「お」と言った方向。位置。そして、捉えた。
ゴオオオオ、と音が聞こえる気がする。竜のような機体の両翼で何かが回転していた。透き通る蒼色の、どす黒い飲料とは大違いの幻想的な軌跡。ヴェイパートレイルに、紙吹雪のような黄金の粒子群。しばらく機体は直線的な飛行を続けると、やがて唐突に凄まじいスピードで空に『N』の軌跡を残した。弾け散る粒子。
消える機体。
女子高生はゆっくりと目から双眼鏡を離した。視線は空の一方向を向いたまま。口をポカンと開けている。
「この時刻、この場所、この角度でなら、いつでも見られる」
ファリアが言った。
女子高生は表情を変えぬまま、日に炙られたアスファルトに仰向けに大の字になって倒れ込んだ。
未確認飛行物体。
見たものが、信じられなかった。
この世に、あんな面白いモノがビュンビュンと飛んでいるだなんて。
「これなら、退屈しないでいいだろう」
こちらに背を向けたまま座り込むファリアが言う。
「もう退屈だからと言って、血を流す必要はあるまい」
女子高生は自分の手首をさする。生々しい痕跡が刻まれた、白い手。
苦笑を浮かべる。「さーあ、どうかなあ」とつぶやく。
たとえば、オッサンにこう言ってみる。
「もういいよ。殺っちまっても」
オッサンはいつからかファリアが指差した方向を見つめていて、その体勢はレンチを振り上げたままだった。太陽も背負ったまま。だからオッサンは女子高生の言葉に驚いて慌ててレンチを取り落とす。からん、と音を立てアスファルトを先っちょで一ミリほじくる。オッサンはまともに狼狽して、「あー、うー」と言いながらじりじりと後退して自分の車に戻ってしまった。ぷっぷーとクラクションを鳴らしてくる。
ファリアと女子高生は道を譲った。オッサンの車が走り去る。置き去りにされたファリアの缶ジュースが踏み潰された。
「何て事だっ」
女子高生はレンチを拾い上げている。それを握りしめた手を、手首の傷を、彼女は見つめる。
蝉はまだ鳴かない頃。雲がゆったりと動く夏。それは女子高生の、本心からの言葉。
「なんてつまんない世の中なんだろ」
レンチを肩に担ぐ。双眼鏡を投げ捨てる。タバコを口にくわえる。
うまそうに紫煙をくゆらせる。
ファリアは缶ジュース轢き逃げ犯を追いかける。